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イモに成り損ねた?ヤーコン芋 [ヤーコンの特性]

(2012年12月11日)
 形はサツマイモのヤーコン芋。サツマイモと同様にふかしてみたらどうなるか。食えたものではありません。芋のようで「イモ」ではないですからね。
 なぜでしょうか。
 それは、ともに炭水化物が主成分なのですが、炭水化物の種類が異なるからです。サツマイモの主成分はデンプンで、通称「イモ」と呼ばれるものは、主成分は皆デンプンです。その「イモ」も様々な種類があり、主なものを例示してみましょう。
 まず、世界生産量のベスト5は次のとおりです。

 1位 ジャガイモ (ナス科)   アンデス原産
 2位 キャッサバ (ユリ科)   ブラジル原産
 3位 サツマイモ (ヒルガオ科) 中南米原産
 4位 タロイモ  (サトイモ科) 熱帯アジア原産、類似品種は世界各地
                 (里芋はタロイモの類似品種で中国原産)
 5位 ヤムイモ (ヤマノイモ科) 熱帯アジア原産、類似品種は世界各地
                 (長芋はヤムイモの類似品種で中国原産)
                 (山芋はヤムイモの類似品種で日本原産)
(注)4位までははっきりしているのですが、5位は小生の推測です。
 以上の「イモ」は、その主成分はどれもがデンプンです。

 日本で栽培されている「イモ」で、これ以外には次のものがあります。
 ・コンニャク芋 (サトイモ科) インドorインドシナ半島原産
 ・キクイモ    (キク科)   北米原産
 ・ホドイモ    (マメ科)    中国・日本原産(栽培種は北米原産)
 ・(ヤーコン芋) (キク科)   アンデス原産

 この中で、主成分がデンプンなのはホドイモだけで、他は主成分が異なります。
 ・コンニャク芋 ブドウ糖とマンノースが概ね2:3の比率で幾つも結合したもの
 ・キクイモ     果糖が幾つも結合したもの
 ・(ヤーコン芋) ブドウ糖と果糖が数個から10個程度結合したもの
 <参考> デンプンはブドウ糖が幾つも結合したもの

 ところで、ここまでに、炭水化物、デンプン、ブドウ糖、果糖、マンノースと糖類の名称を幾つか挙げてきましたが、それらの関係や違いについて簡単に説明しておきましょう。まず、栄養学では、炭水化物を次の2つに分けます。
 ・糖質    ヒトの消化器官で消化できるもの
 ・食物繊維 ヒトの消化器官で消化できないもの

 次に、化学的分類では、炭水化物を消化可能の有無に関係なく、単糖の結合数で分けます。その「単糖」とは何かと言いますと、定義は難しくなりますが、基本的には植物の光合成によって作られるC6H12O6の分子式の有機物で、その構造の違いで何種類にもなります。また、動物がさらにその構造を作り替えもします。

 主な単糖は次のとおりですが、特殊なものも併せて記します。
  ・ブドウ糖   最も一般的なもの
  ・果糖      果物に多く含まれる
  ・ガラクトース 動物によって作り替えられたもの、一部の植物にもあり
  ・マンノース  コンニャクに特有のもの

 単糖が2つ結合すると、様々な2糖類ができ、次のようなものになります。
  ・ブドウ糖+ブドウ糖   麦芽糖 
  ・ブドウ糖+果糖      蔗糖(砂糖) 
  ・ブドウ糖+ガラクトース 乳糖

 単糖が3つ結合した代表的なものは、次のものです。
  ・ブドウ糖+ガラクトース2個  ガラクトオリゴ糖(母乳の1成分)

 単糖が少数(3~10個程度)結合したものを少糖類と言い、通常オリゴ糖と呼ばれ、代表的なものは次のものです。
  ・ブドウ糖と果糖の2種類が結合  フラクトオリゴ糖

 単糖が幾つも結合したものを多糖類といい、次のものがあります。 
  ・ブドウ糖だけが結合      デンプン
  ・果糖だけが結合        イヌリン(キクイモの主成分)
  ・ブドウ糖とマンノースが結合 グルコマンナン(コンニャク芋の主成分)

 さて、「イモ」と呼ばれるものは皆、その主成分が多糖類になっています。
 それに対して、唯一ヤーコン芋は、少糖類(オリゴ糖)を主成分とします。
(なお、ヤーコンのそれ以外の主な成分は、未結合あるいはオリゴ糖が分解して生じたブドウ糖と果糖です。これは、ヤーコンの品種によって差が生じ、甘みの強弱の違いとなって現れます。)
 さて、他の「イモ」が皆、多糖類を作るのに、ヤーコンだけが少糖類(オリゴ糖)を作るのはなぜなのでしょうか。大いなる疑問です。
 これは、どうやらヤーコンは、その進化の過程で、形だけは「イモ」の形状にできたものの、ブドウ糖と果糖をたくさん繋ぎ合わせて不溶性の多糖類を作ろうとしたが、それに失敗し、水溶性の少糖類しか作り得なかったと考えて良さそうです。
 ですから、ヤーコン芋は、通常の「イモ」と違って、食感も料理法も全然違ったものになってしまうのです。生食なら「梨」、てんぷらにすれば「レンコン」、煮込めば「大根」に近いものになってしまうのは、こうしたことが原因しているのです。
 何とも不思議なヤーコン芋です。

 サトイモ科、ヤマノイモ科、ユリ科の植物にあっては、たいていの種(しゅ)が、「イモ」(ユリ科にあってはユリ根)を上手に作れるようで、「イモ」ができる種が多いようなのですが、「イモ」を作るのは例外となるキク科にあっては、キクイモがそれに成功しただけで、基本的に「イモ」づくりが下手なのでしょうね。
 もっとも、ナス科、ヒルガオ科も「イモ」を作るのは例外となりますから、ジャガイモやサツマイモは、かくも立派な「イモ」をよくぞ作ったものだと感心させられます。

 最後に、少糖類と多糖類について、栄養学上の違いを紹介しておきます。
 ・糖質(ヒトの消化器官で消化できるもの)に分類されるもの
   デンプン
 ・食物繊維(ヒトの消化器官で消化できないもの)に分類されるもの
   ガラクトオリゴ糖(母乳の1成分) 
   フラクトオリゴ糖(ヤーコンの主成分)
   イヌリン(キクイモの主成分)
   グルコマンナン(コンニャク芋の主成分)

 食物繊維に分類されるものは、ヒトには消化できないものの、腸内細菌が分解してくれます。ただし、その程度に差があって、イヌリンやグルコマンナンは多糖類であるがゆえに、なかなか容易には分解できないようなのですが、少糖類(オリゴ糖)は比較的容易に分解でき、腸内細菌の餌になって腸内細菌が大増殖しますし、有機酸などに作り替えてヒトに栄養源として供給してくれもします。加えて、大腸内が酸性に傾き、ミネラルがイオン化して吸収されやすくなります。
 いいことづくめの少糖類(オリゴ糖)です。

 その中でも、ブドウ糖と果糖からなるフラクトオリゴ糖は、乳製品摂取の習慣がなかった日本人の体質にぴったりなオリゴ糖と言われています。
 一方のガラクトオリゴ糖は動物の乳由来のものですから、日本人の場合は赤ちゃんを除いて、あまり望ましくないと思われます。と言いますのは、乳製品摂取を1万年以上続けてきた民族にあっては大人も乳糖の消化能力がありますし(日本人にはほとんどない)、ガラクトオリゴ糖を動物の乳から摂り続けてきていますから、体に馴染んでいると考えられるのですが、日本人には馴染みがなく、牛乳が体に悪いことからして、ガラクトオリゴ糖も同様なことが危惧されるからです。
 なお、オリゴ糖は腸内細菌の格好の餌になるのですが、日本人の腸内にいる腸内細菌には、フラクトオリゴ糖の方がよいとの研究報告もあるようです。

 もう一つオリゴ糖の仲間に入るものがあり、それは難消化性デキストリンです。
 デキストリンとは、デンプンを細かく切って少糖類の状態になったもので、これは小腸内で容易にブドウ糖まで消化されるのですが、その結合構造が特殊な形になっている場合は消化不能となり、それを難消化性デキストリンと言います。その働きは、フラクトオリゴ糖と概ね同じと思われますが、腸内細菌にとって、どの程度好まれるか、これについては申し訳ありませんが、小生の不勉強で分かりません。

 いずれにしても、ヤーコンは、芋のようで「イモ」ではなく、不溶性の多糖類づくりに失敗し、水溶性の少糖類(オリゴ糖)しか作り得なかった“不良品”であるのですが、こと現代社会、特に日本人にあっては、その食習慣からして、にわかに“救世主”として登場した“奇跡の健康野菜”と言え、大いに食していただきたいものです。
 そして、ヤーコンづくりが全国津図浦々まで広まってほしいものです。

 ついでに、参考までに、アンデス原産の主要食糧(穀類、芋類、豆類)について紹介しておきましょう。将来有望なものも複数ありそうです。
 それらは全て造山運動によって熱帯の植物が過酷な環境に追いやられた結果、できあがったものと思われます。
 以下、小生の別ブログの記事をご覧ください。
 ⇒世界の食糧難を救った作物はなぜかアンデス生まれ、そしてこれからも。

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